近代のガラス<ヴィネチアとボヘミアの戦争>
ヴェネチア・ガラスヴェネチアの繁栄と衰退、明暗を分けた「クリスタル」
ルネサンス以降、近代のガラス工芸の発展を、まさに2分したのは、ヴェネチア・ガラスとボヘミア・ガラスでした。
東方貿易を独占して巨大な富を築いた海上王国ヴェネチアは、当時のヨーロッパ人達の重涎の的であったイスラム・ガラスをも独占的に輸入し、その技法を吸収してしまいました。しかし、14世紀頃、イスラム世界の政治的混乱のためガラスの輸入が困難になると、ヴェネチアは周到にガラス技術を秘法のまま、ヨーロッパ市場に売り出すためのガラスの自給生産の道を選びました。15世紀にはアンゼロ・バロヴイエールの発明と伝えられる、水晶のような透明度の高い「クリスタル」の出現で他の水準を抜き、16世紀には、純白のレースを編み込んだようなレース・ガラスや「千の花」と呼ばれるミルフィオリ・ガラスが登場して、ヨーロッパの王侯貴族のテーブルを飾ったのです。しかし。続く大航海時代には、東方海路の発見などによってヴェネチアの独占的経済体制が崩され、このガラス王国の繁栄にもようやく衰退の兆しがみえてきました。そして17世紀、ボヘミアで、ガラス工芸における第2の革命的発見である「カリ・ガラス」がつくられるようになると、『ボヘミア・クリスタル』と呼ばれているその堅牢で透明な水晶のようなガラスがヨーロッパ市場を独占し、ヴェネチア・ガラスの勢力に見る影もなく失墜したのです。
2009年9月25日に日本硝子製品工業会では、「我が国におけるクリスタルガラスの定義が判然としない」と言うご指摘に鑑み、本会会員の中でガラス食器分野に関わる企業に参画を呼び掛け、「クリスタルガラス定義検討委員会」を設置して、昨年5月より調査、研究を重ねて参りました。欧州のクリスタルガラスの規格や、現実の日本のマーケットにおける見解など様々な観点から議論、検討を重ね、ようやくここに現在のクリスタルガラスの実情に即した定義をお示しできる運びとなりました。現在のクリスタルガラスのマーケットは、欧州のクリスタルガラスの定義などが策定された頃の状況から大きく変化しております。今回本工業会で策定した「クリスタルガラス定義」はその点も十分に考慮に入れ、現在そして将来を広く見据えた内容になっているものです。ぜひご一読いただければ幸いです。
なお、本定義についてご質問などがございましたら、日本硝子製品工業会ホームページをご覧下さい。
日本おける「クリスタルガラス定義」
クリスタルガラスとは、酸化鉛を主要成分として含むガラス、および酸化カリウム、酸化バリウム、酸化チタニウムなどを主要成分として含むガラスで、高い透明度を有し、かつ屈折率nDが1.520以上(註-1)で光沢のある美しい輝き、および澄んだ音色で特徴付けられる。
このうち酸化鉛を30%以上含み密度が3.00g/cm3以上のものを「フルレッドクリスタルガラス」、酸化鉛を24%以上含み密度が2.90g/cm3以上のものを「レッドクリスタルガラス」、酸化鉛含有量が24%未満で酸化鉛単独もしくは酸化カリウム、酸化バリウム、酸化亜鉛と併せて10%以上含むものを「セミレッドクリスタルガラス」とそれぞれ呼び、また酸化鉛を含まず酸化カリウム、酸化バリウム、酸化チタニウム、酸化亜鉛など(註-2)を単独でまたは共に10%以上含むものを、主要成分を基にそれぞれ「カリクリスタルガラス」、「バリウムクリスタルガラス」、「チタンクリスタルガラス」などと呼ぶ。
(註-1):
酸化鉛を含まず酸化カリウムを主要成分とするクリスタルガラスはこの限りではない。
(註-2):
酸化ストロンチウム、酸化ランタンなど、酸化ナトリウム、酸化カルシウムを除く金属酸化物
参考文献
1) Miroslav Rada, "Legislation governing crystal glass: Developments" Glass International, April 30-34 (2009)